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小説・震災後

小説・震災後 (小学館文庫)小説・震災後 (小学館文庫)
(2012/03/06)
福井 晴敏

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わが家の息子は、東日本大震災の12日後に東京で産まれた。
来月で1歳半になるから、あの日からおおよそ1年半が過ぎたことになる。

最近、息子は歩けるようになった。
チョロチョロと動き回る息子を追いかけながら、子どもの成長の早さに感心する一方、
普通の生活に戻れたんだなぁと改めて実感する。

計画停電が発表されたのは地震の翌日だった。
夜の9時くらいだったか、首相の記者会見の後、
指定された自治体の名前が延々と読み上げられる。

途中で見るのをやめて、スーパーに買出しに行くことにした。
出産を間近に控えた妻は「そんなにあわてなくてもいいんじゃない?」
と怪訝そうにしていたが、外の様子を見てみたいという気持ちもあった。

あのときのスーパーの異様な雰囲気は今も忘れられない。

人々が殺気を帯びた目で店内を歩き回り、日持ちしそうな品物を片っ端からカゴに入れていく。
最初はいつもよりちょっと混んでいるかなという程度だったが、
あっという間に山盛りのカートを押す人の行列ができる。
レジの女の子は、何が起こっているのかわからない面持ちで必死にそれをさばいている。
店を出るころには商品棚がすっかり空になっていた。

「とんでもないことになった」

翌日、薬局から紙オムツとミルクが消え、スーパーから牛乳が消えた。
兵庫の兄からは、身重の妻と上の子だけでも関西に避難させてはどうか、と打診が来た。

このまま東京で出産して大丈夫だろうか?
いてもたってもいられなくなって、出産予定の病院にかけこんだ。
こんな状況で無事子どもが産めるのか、それだけでも確認したかった。

しかし、病院の反応は、思いがけないものだった。

ロビーに入ると驚くほど静かで、患者さんもスタッフも、普段といたって変わらない様子だ。
地震や原発のことがなかったかのような、淡々とした時間が流れている。

2階にある産科の窓口に向かい、忙しそうに動き回っている看護師さんを捕まえて尋ねる。
「停電しても分娩できるのでしょうか」

なに、そんなこと?という表情で看護師さんはきっぱりと答えた。
「電気がなくても子どもは産めます」
他に用がないならこれで、といった感じで看護師さんはさっさと仕事に戻っていった。

「そうか、現場の人間はとうに腹をくくっているんだ」
そんなこともわからずに一人でテンパっていた自分が恥ずかしい。
その夜わが家は、出産も子育ても東京で続ける覚悟を決めた・・・


「小説・震災後」は、震災後の東京を舞台にしている。
地震、津波、原発事故、停電・・・情報が錯綜し、どんどん先が見えなくなっていく描写は、
フィクションとは思えない生々しさだ。
一時の混乱が過ぎて原発はなんとか収束に向かい、東京は普段の生活に戻っていった。
でも、人々の心には、言いようのない無力感と、将来に対する絶望が残った。
『なんとかしたい、でも何もできない』

小説の中でも、人々を勇気づけたのは腹をくくった人の言葉だった。
主人公・野田の父は語る。

『日本は現場力の国だ』

地震と津波と原発【事故】で社会は分断された。
でも、多くの人がなんとか前を向いて生きられるようになったのは、
現場の人が、【プロ】意識をもって、目の前の仕事を
こなしてくれているおかげだろう。

小説の設定やセリフはやや芝居がかっていて団塊の世代の臭いが強いが、
震災後の世界を生きていくのも悪くないかな、と思わせれくれる良書。
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