弾左衛門とその時代 (河出文庫)

弾左衛門とその時代 (河出文庫)弾左衛門とその時代 (河出文庫)
(2008/01/05)
塩見 鮮一郎

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お笑い芸人が実はお嬢様だった、とかいう番組を観るたびに
お金に不自由しないのに貴重な芸人枠をとるなんて、
胸糞悪くなったりするのだが、そんな単純でもないようだ。


浅草弾左衛門

江戸時代、屠殺から芸能までアングラ界を牛耳った男。

弾左衛門の名は人名であるとともに世襲の職名でもある。
なので歴史上何人もの弾左衛門がいる。

本書は、江戸から明治にかけて生きた最後の弾左衛門、
弾直樹についての物語。

史実だけで言えば、明治4年の解放令によって、
すべての被差別者は平民になることができた。
しかし想像に難くない通り、差別はその後もなくならなかった。

江戸時代の差別は、身分制とセットだった。

被差別者は特定の場所にしか住むことができず、
特定の職業にしか就くことができなかった。
その代わり、その居住地や職業を独占することができた。

先のお笑い芸人の例でいえば、どこぞの金持ちが
割り込んできたとしても、排除する権利を与えられていたのだ。

明治の解放は、このアメとムチの両方を取っ払った。

解放令と前後して、土地の所有が自由化された。
被差別者はこれまで住んだ土地の払い下げを受けたはいいが、
所有者として税金を払わなければならなくなった。

日銭を稼ごうにも、屠殺などの仕事は自由化されて
農民や資本家に奪われている。

かくして新平民たちは、生活の糧を奪われた形で、
資本主義の荒波に放り出されたのだ。

弾直樹は、この解放を複雑な思いで受けとめただろう。

彼はどこで学んだのか、江戸末期から解放を訴え続けてきた。
その意味で、解放令は悲願の実現であった。

しかしあまりにラディカルすぎた。
彼が求めていたのは「段階的な」解放で、
その手順は自分に決めさせてもらいたかった。

アングラ界を知り抜いている彼にとっては、急激な解放が
混乱しか招かないことは自明だったのだろう。

一見被差別者の味方であるかのような彼のスタンスは、
被差別者の上に立ち続けたい選民意識と裏腹でもあった。

この点は江戸中期に弾左衛門傘下を抜けた歌舞伎にも通ずるものがある。
被差別を抜け出した芸能集団は、その後権力と結びついて逆に特権化した。

解放後、平民となった弾直樹は皮革工場を始めたりしたがうまくいかなかったようだ。

ただ、彼の下で学んだ職人たちは、全国で皮革産業の担い手となった。
被差別の専売だった皮革産業は、軍需で立派な【ビジネス】に成長した。


弾直樹が亡くなって125年経った今、
お金持ち芸人になり、
それが奇異に映らないのだとすれば、
彼が目指した社会が実現しているとも言える。

そうやって世の中が希釈されていくことが【近代化】というものなんだろう。
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