武蔵野夫人

武蔵野夫人 (新潮文庫)武蔵野夫人 (新潮文庫)
(1953/06/09)
大岡 昇平

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恋愛小説にしては地形描写が多すぎる
そんな苦情が来るんじゃないかというくらい地形の話が多い。

しかも内容がいちいち正確で、地質学の文献とも一致しているとこがすごい。

物語の舞台となった「はけ」=国分寺崖線と「狭山丘陵」は、地形好きにとってどストライクな場所。
作者の大岡昇平、フィリピンの密林で兵隊をやっていただけに、かなりのマニアに違いない。

つい地形の話になってしまった。本編に入ろう。

主人公の道子は、父の代から「はけ」に住む人妻。夫はフランス語を教える大学教員。
「はけ」の近所にはいとこの成金、大野とコケティッシュな妻、富子が住む。

ある日、もう一人のいとこ、勉がビルマから復員してきた。この戦場帰りのニートっぽい男が、
形だけでつながっていた二組の夫婦を壊し始める。

スリリングな展開で読み物としてはおもしろいが、肝心の恋愛部分はいまいちピンとこなかった。

まず、夫が身勝手すぎる。秋山も大野も、妻を奴隷ぐらいにしか考えていなくて、そりゃあ奥さんも浮気するわ。
かたや勉くん、道子や富子を人扱いしてくれるからモテモテだ。だけど一緒になるには経済力が足りない。

道子と富子が冒険できるのも家庭にそれなりのがあるからなわけで、
結局お金と身分だけで話がきまっちゃってる感じ。

時代を反映していると言えばそれまでだけど、「道子から何を感じとればいいんですか?」
と問われると、昔の【女性】は大変だったんだよ、ぐらいしか答えようがない。

それに引き換え地形描写の普遍的なこと!貫井神社や多摩湖の記述は、
60年を経た今でも、あ、あそこのことだ、とわかる臨場感。

ひょっとすると作者は、このコントラストを描きたかったのか。

道子を苦しめた家族制度がいずれ消え行くものだという、
予言というか願望のようなものを込めてこの作品を書いたのだとすれば…。

今この作品を読んで感じられる違和感は、作者がに描いていた世界が実現した証ということになる。

昇平、おそるべし。
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